AI翻訳をはじめとした機械翻訳の発展に伴い、「ポストエディット」と呼ばれるAI翻訳の結果を手直しする作業の需要が高まっています。ゼロから翻訳していたこれまでの翻訳方法とは異なり、機械翻訳の結果の修正というところが新しい手法です。
ポストエディット(Post-edit)とは、近年急速に発達した、AI翻訳をはじめとした機械翻訳によって生成された訳文を、人の手によって修正し精度を上げる作業のことです。
人の手による翻訳よりも生産性が高くなるとの考えで、コストパフォーマンスを上げるために機械翻訳とポストエディットを導入する企業も増えています。
また、機械翻訳による翻訳結果では品質に不安がある、翻訳者に依頼するのは、納期やコストにおいて難しい場合などに、折衷案としてポストエディットを選択するケースも多くなっています。
■ポストエディットと翻訳の違い
人の手による翻訳がはじめから翻訳作業を行うのに対し、ポストエディットでは機械が訳出した文章を修正するところが大きな違いです。
ポストエディットは機械の訳出した訳文をチェックし、問題がなければ翻訳チェックのみで済みますが、訳漏れや誤訳があれば機械翻訳の結果を活かしながら、修正します。機械翻訳によって訳出された文章に全面的な修正を施して翻訳精度を上げ、人間が翻訳するように流暢で背景も加味した正確な翻訳にする「フルポストエディット」または大意を把握する目的で一部に手直しを行う、簡略化されたポストエディットである「ライトポストエディット」と求められるレベルの翻訳へと修正していきます。
一方翻訳とは、2つの異なるバックグラウンドの言語を別の言語で書き直す作業です。訳文をより読みやすく自然な表現になるよう翻訳するだけでなく、文化的背景などを内容に反映させるところも翻訳の特徴です。
ポストエディットと翻訳の違いは、作業としての違いはもちろん、翻訳結果の違いとしても現れます。ポストエディットでは、作業時間重視であるため、意味的に正しいかどうかが優先事項です。
一方翻訳では、内容重視です。読みやすさ、内容に合わせて求められている翻訳トーンになっているか、文化的背景やコンテクストが反映されているかなどについて、ポストエディット以上に配慮するところが特徴と言えるでしょう。
■ポストエディットの役割と機械翻訳
ポストエディットの台頭の背景には、近年の機械翻訳ツールの爆発的な増加と精度向上があります。AI翻訳ツールの精度は飛躍的に向上しましたが、現時点では人間には勝てません。そこで必要となったのが、ポストエディットです。
ビジネスのグローバル化と共に翻訳機会が増加し、翻訳量も増えています。そのため、これまで社内でこなせていた翻訳作業がこなしきれない、翻訳に時間と予算がかかりすぎるといった問題が出てきます。
機械翻訳のメリットは、スピーディーな翻訳です。しかし、翻訳結果の精度は人手に及ばないケースも少なくありません。そこで、翻訳精度の問題クリアのために、機械翻訳の後にポストエディットを行うという方法が取られるようになりました。
翻訳の役割はメッセージの伝達です。機械翻訳を使ってもポストエディットというひと手間をかけることで、伝えたいメッセージが伝えられるようになるのです。
■ポストエディットとプリエディット
ポストエディットに似た言葉に「プリエディット(Pre-edit)」があります。
共通点は、いずれもAI翻訳などによる訳出される文章の精度を高めるために、人の手によって行われる作業であるところです。
異なる点は、機械翻訳によって訳出された文章を修正するのがポストエディットであるのに対し、プリエディットは、AI翻訳などの機械翻訳で誤訳となりやすいポイントを、あらかじめチェックし、わかりやすく修正しておく作業であるところです。長い文を短く分ける、二重否定を避けるなどがよくある例です。他にも、主語がなくても文章が成り立つ日本語を、主語が必須とされている英語などの言語に訳す場合、文脈や他の資料から主語をあらかじめ見つけ出す作業もプリエディットの一部です。
プリエディットとポストエディットの組み合わせにより、機械翻訳による翻訳結果の精度を高め、よりスピーディーな翻訳作業の仕上がりが実現できます。
■ポストエディットに求められる能力
クオリティの高いポストエディットを行うには、文章の背景を汲んだ行間を読む力、微妙なニュアンスや訳語として自然な表現力など翻訳者としての能力だけではなく、情報収集・調査能力、専門分野に関する知識など、多くのスキルが求められます。
また、原文にない情報の追加や重要な情報の削除など、機械翻訳独特のエラーを見つけ出すなどの注意力も必要です。
ポストエディットには、国際標準規格である「ISO 18587」があります。ISO 18587は、機械翻訳後のポストエディットサービスにおいて、規程の業務プロセスそれぞれに定められた要求事項の遵守により、一定の高品質な翻訳サービスを提供することを目的とした国際規格です。日本国内には認証取得の支援機関が存在しないため、企業が自身で規格への適合性を評価し、適切であれば、自らの責任において規格への運用およびその適合を宣言する「供給者適合宣言」制度が ISO/IEC 17050(JIS Q 17050)で定められています。
ポストエディットを行う翻訳会社を選ぶ際には、ISO 18587宣言の有無が1つの判断基準になるでしょう。
■ポストエディットのメリット
機械翻訳によって訳出された文章の精度を高める作業である、ポストエディットの需要が高まった背景には、AI翻訳の飛躍的な発達があります。AI翻訳のメリットは、膨大な量の文章を短時間に訳出できるところです。訳出された文章の精度が高ければ、ほとんどポストエディットが必要ない場合もあり、そのような場合、翻訳作業時間は大幅に短縮できます。翻訳内容の大意が理解できればよいライトポストエディットのケースでも、ポストエディットは最低限ですませられるため、翻訳完成までの時間は短くなります。
このように、AI翻訳のように精度の高い機械翻訳とポストエディットの組み合わせにより、翻訳作業に費やす時間の短縮が可能になるのが、ポストエディットのメリットといえるでしょう。
■ポストエディットの利用と依頼のポイント
人の手による翻訳では時間がかかりすぎるなどの理由から、手軽に利用できる機械翻訳ツールの利用数は年々伸びています。スピーディーで便利な機械翻訳ですが、翻訳ツールによっては翻訳精度が不十分なケースもあります。そのような場合に、精度を上げる目的でポストエディットを行うと、元の機械翻訳の結果の精度によってはすべてを翻訳し直さなければならず、結果として翻訳にかかる時間と変わらないという状況にもなりかねません。そのため、ポストエディットにかかる作業時間の短縮には、精度の高い機械翻訳ツールの利用が大切です。
人の手による翻訳と比べて精度が低くなりがちなポストエディットですが、ある程度のクオリティが必要なのであれば、AI翻訳をはじめとした機械翻訳の後にポストエディットを行うだけでなく、プレエディットで機械翻訳結果の精度を向上させる方法もあります。原文のわかりづらさや不明瞭さをなくすプレエディットで、主語を補う、長文を短く分けるといった手間をかけることで機械翻訳結果の精度が上がり、結果としてポストエディットにかかる時間も短縮されます。
また、ポストエディットを依頼する際には、ポストエディットの国際標準規格である「ISO 18587」の有無も、ポストエディットのクオリティの判断基準になります。
■ポストエディット依頼の注意点
ポストエディットを行う場合は、成果物に求められている品質がどの程度なのかを知り、求められているレベルに合わせた翻訳結果になるよう、フルポストエディットとライトポストエディットを使い分けます。
フルポストエディットとライトポストエディットの使い分けは、求める翻訳の精度とかけられる時間によって決まります。フルポストエディットであれば、翻訳精度を高める必要がありますが、求める翻訳精度が高品質すぎれば、人の手による翻訳と変わらないほど時間がかかってしまう可能性があります。ポストエディットに時間がかかりすぎては、機械翻訳の最大のメリットである時間の節約にはなりません。そのため、内容や納期によってフルポストエディットとライトポストエディットの使い分けをする、精度の高い機械翻訳ツールを使い、質の高いポストエディットのできる翻訳会社へ依頼するなどの工夫をするとよいでしょう。
■十印のポストエディット
十印では、お客様のご要望に合わせ、ライトポストエディットからフルポストエディットまで、高い翻訳・ポストエディットの知識を持った経験豊富なポストエディターが、機械翻訳の訳文の最適化を迅速に行います。また、十印のAI翻訳ツール「T-tact AN-ZIN®」をご利用いただくことも可能です。
・国際標準規格ISO 18587
十印では、2022年12月1日、ポストエディットの国際標準規格ISO 18587供給者適合宣言をしています。高品質なフルポストエディットサービスで、AI翻訳による訳文の精度を高め、信頼性の高い翻訳をお届けします。
・高い翻訳技術
十印では「情報技術・通信・工業」「医学・医薬」「金融・経済・法務」の分野で、翻訳の国際規格ISO 17100認証を取得しています。専門知識のある翻訳者による国際規格に裏付けられた高品質な翻訳で、お客様の翻訳作業をサポートし、業務の効率化をお手伝いします。
十印では、ポストエディット、人の手による翻訳、AI翻訳など、安全で高品質な、歴史ある翻訳会社ならではの翻訳のプロによるトータル翻訳サービスを提供しています。高品質なポストエディットサービス導入をご検討中なら、是非お気軽に十印にお問い合わせください。
・ポストエディットの種類
人間の翻訳と同等レベルの品質まで仕上げる「フルポストエディット」、内容の把握ができればよい「ライトポストエディット」がございます。お客様のサンプルドキュメントをご提供いただくことで、お客様の使用目的や改版の頻度、時間やコストの制約を検討して、最適なMTPEフローをご提案いたします。
十印では、ポストエディット、人の手による翻訳、AI翻訳など、安全で高品質な、歴史ある翻訳会社ならではの翻訳のプロによるトータル翻訳サービスを提供しています。高品質なポストエディットサービス導入をご検討中なら、是非お気軽に十印にお問い合わせください。
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