海賊版の撲滅に役立つ?“マンガ”の翻訳作業を機械翻訳で効率化
近年、機械翻訳の精度は格段に向上してきました。テキストデータや音声であれば、機械翻訳によって精度の高い訳文が瞬時に出来上がってくるようになっています。画像データにつきましても、OCR機能が向上したことにより画像データ内に文字が入っていても、テキストデータとして認識することが可能となりました。
画像と文字の組み合わせとして最たるものとして“マンガ”があります。“マンガ”の吹き出し内にあるセリフや、“マンガ”に多用される効果音や擬音は機械翻訳できず、翻訳者が人力で翻訳する必要がありました。
吹き出し内のセリフだけであれば、OCRを使って読み取りテキスト化すれば良いかもしれませんが、効果音や擬音などは手描き風で表現されているため、OCRで精度を高く読み取っていくためには難しいものがあります。
しかし2020年7月28日のこと、“マンガ”のセリフや効果音、擬音などを機械翻訳してくれるクラウドサービスが登場しました。本記事では、“マンガ”を機械翻訳してくれるクラウドサービス「Mantra* Engine」を紹介します。
*Mantraはアジア太平洋機械翻訳協会より第16回AAMT長尾賞(2021年)を授与されました。
“マンガ”が海外進出するときのネックが翻訳
数十年前から、日本のポップカルチャーとしての“マンガ”は世界中で絶大なる人気を博しています。しかし、“マンガ”のセリフや効果音、擬音など翻訳は通訳者が人力で行わなければいけないので、翻訳版が海外で発売されるのは早くても数ヶ月先という状態でした。その間に海賊版が発売されることとなり、“マンガ”の作家や出版社に対して経済的損失が発生することとなっています。
“マンガ”の2019年度売上高は日本国内で約4,400億円あるのに対して、海外全体で見ても約1,000億円弱だと言われています。人気の高さに比べて海外での売上高が少ないのは、翻訳までのタイムラグが長く海賊版が横行していることも大きな理由と言えるでしょう。
その現状を打破するものとして生まれたのが「Mantra Engine」です。日本語の“マンガ”原稿をクラウド上にアップロードすると、“マンガ”のコマを検出し、吹き出しの順番を認識してセリフを英語や中国語などの他言語に翻訳して置き換える機能が「Mantra Engine」には用意されています。
「Mantra Engine」では、作業中の原稿データを共有しての翻訳者によるチェックや、フォントサイズの調整といった写植処理など、通常の“マンガ”の翻訳版制作プロセスのほぼすべてをWebブラウザで完結することができます。
“マンガ”特有の文字配置をAIに学習させるための教師データを大量に生成
“マンガ”には吹き出しの中だけセリフが描かれているわけではありません。それが“マンガ”の自由さでもあるのですが、絵柄の上にセリフが重なることや、コマをまたがったセリフや効果音、擬音などもあります。
「Mantra Engine」では、それらも文字として正しく認識する必要がありました。そこで、このような“マンガ”特有の文字配置をAIに学習させるための教師データを大量に生成する技術を開発しました。
また、吹き出しの中のセリフについても、多様なフォントがあり1つの“マンガ”の中でもフォントが変化したり、文字が傾いたり、特殊な変形が生じたりすることが多く現れます。
これらの課題を克服するために、「Mantra Engine」は苦労しています。
“マンガ”から言葉の壁を取り払うために機械翻訳を活用
「Mantra Engine」の機械翻訳で、完璧な翻訳が出来上がる割合は3割程度ということです。残りの7割については、少しの修正で済む程度のものから、大きく手を加える必要があるものまで、レベルは色々となっています。しかしそれでも翻訳者がすべて人力で翻訳をしていくのに比べて、作業時間はおよそ半分近くにまで短縮できると言います。
“マンガ”というものはコマ割りが独特で、そのサイズも順番も自由に描かれています。セリフの順番も正確に決まったものはなく、読者はだいたいの雰囲気で読むことになります。人間であれば、イラスト全体を見つつ、なんとなく正しい文脈を理解していきますが、現在のAIではそのような作業は難しいものとなっています。
そこで「Mantra Engine」では、“マンガ”らしい翻訳を学習させることで翻訳精度を高めています。テキストボックスやコマ割りなどの順番をAIに学習させることで、マンガの画像データから適切な文脈を割り出した翻訳が可能となりました。
「私たちの目標は、テクノロジーで言葉の壁をなくし、マンガに関わる世界中の人を幸せにすることです」と掲げている「Mantra Engine」ですが、そのテクノロジーが機械翻訳というわけです。
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